「一言」



先日こんな経験をしました。

京都の町家が並ぶ幅狭い通りをゆっくりと車を運転していました。前方には外国人の女性がふたり、大きな旅行バッグを転がして歩いています。傍にはガイドでしょうか、日本人の女性が同行していました。

ふっと見ると、大きなバッグの上に積まれたおみやげらしき物がころげ落ちました。彼女たちはなにも気付かず歩いていきます。
私は車のクラクションを小さくならし、振り返った三人に落ちた荷物を指差してそのことを知らせました。日本人の女性があわてて引き返し、それを拾って、こちらを見ることもなくまたもとの二人と並んで歩き始めました。

私は、「なんと礼儀のない人間やなあ、ちょっとくらい挨拶してもいいのに」と感じた次の瞬間、二人の外国人女性たちがこちらを振り返り手を振って、美しい笑顔で会釈してくれました。
そのことで気を良くした私でしたが、こちらに何の反応も示さない日本人女性の態度が許せない複雑な思いが残ってしまいました。

そんなことがあってから数日後、京都駅でのことです。
大勢の人々の中、新幹線に乗車するため私も列に並んでいました。
そこへあわてて走ってきた一人の女性が列の隙間をすり抜けようとして、ジュースを持って並んでいた別の女性と接触、その手に持たれたジュースを飛ばしてしまったのです。

オレンジ色の液体と細かい氷が紙コップとともに空中に舞い、ホームに散乱しました。あわてて走り抜けた女性は、自分が起こしてしまったことに気付いたのでしょう。数メートル走った後、振り返ってはみたものの、「無言」で、ただただ当事者たちのにらみ合いが続くばかり、衆人は緊張に包まれました。

そして結果、一人の女性は踵を返し走り去ってしまい、残された女性は紙コップを拾い始めたのです。
「ああ、一言ほしかった・・・・。」
現在の日本人のこんな部分を見てしまった情けない瞬間でした。

亀村 俊二

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