ちょっと、お寺で一休み



もうずいぶん以前の話になります。妻は学校に勤め、私はフリーのカメラマンで月のうち何日かは撮影の依頼もなく、そんな時は写真の被写体をさがして京都近辺をあちこち車で走ることが常でした。

京都を南に下がって行くと、いつもお参りさせていただくお寺があります。伏見の妙福寺です。

その日もカメラを持って走り回っていましたが、ちょっと、妙福寺さんでひと休み、お寺でひと休みとは、ばちがあたりますが、本堂にごあいさつを終えてから庫裡へ向かいます。

当時、庫裡には御住職が居られ側にはいつもかおる奥様がついておられました。
私が訪れるとご信心の話、仕事の話、家族の話、楽しいことや困ったこと、いろいろ聞いていただき、教えていただけます。こころも身体もひと休みの後は、背中を押されるようにまたもとの仕事に戻って行くのです。

いつものように御住職、奥様との話を終え「ありがとうございました。それでは」と、立ち上がったのですが、かおる奥様が私の足下を見つめて、
「あんた、靴下、大きな穴あけて、えみちゃん(私の妻)なにしてんの」
「ちょっと待ってよし」と言って奥からまだ包装紙に包まれたままの靴下のケース箱を持ってこられました。

「これにお履替え」
かおる奥様のお人柄からくるものでしょうか、 靴下の大きな穴を見つけられても恥ずかしい思いをすることもなく、妙に素直に、その中の気に入った靴下を一足取り出していました。
そしてその場で履き替えることになったのです。

「これ、みんな、持ってお帰り」
私は何足かの靴下をもらって、まるでやさしい母に叱られるような、そんなうれしい気持ちでお寺を後にしたことを記憶しております。

亀村 俊二

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