ネス湖の思い出



ネス湖のネッシー伝説がまだ信じられていた頃、1977年にイギリスのスコットランド地方にあるネス湖へ旅をしました。
ロンドンから機関車とバスを乗り継ぎ2日間かかってネス湖の起点の街インバネスに着いたのは午後の3時をすぎていました。
早めにツーリスト案内で今夜のBB(ベッド・アンド・ブレックファースト)民宿を予約してすぐにそちらに向かいました。

BBは三角屋根の可愛らしい家で庭の芝生と赤いバラのコントラストが魅力的でした。
ベルを押すと中からお婆さんが出て来て、この家の住人が居ないので後で来るようにと言われ、とりあえずバッグを置かせてもらって、カメラひとつ持ってインバネスの街を散策しました。

ひととおり街を撮り終えてBBへ帰ってくると、こんどは先とは別のお婆さんが出て来て、また、この家のものが居ないと言うのです。私は今晩の宿泊予約をしていることを片言の英語でなんとか伝え無理を押して部屋へ案内してもらうことにしました。

そして、二階の奥の部屋へ入るなりその様子に驚かされました。壁はピンク色の細かい花柄で金色の曲線の飾り金具の付いたベッドも可愛い花柄でトイレもバスも壁の楕円形の大きな鏡や照明まで金色とピンクで揃えられていたのです。

私は、明朝早くからバスでネス湖に行く計画だったので、風呂に入ってすぐに寝ることにしました。
ベッドで横にはなるものの、私が会ったのはふたりのお婆さんだけでこの家の住人がいないこと、そしてあまりにも奇麗すぎる女性の部屋で自分が眠ろうとしていること、あまい香水のかおりなどが気になってなかなか眠りつくことができませんでした。

もしかして、とんでもない所に迷い込んだのでは・・・部屋の明かりも消せずにうとうとし始めた頃、ドアをたたく音で起こされました。ゆっくりと立ち上がって少しドアを開けると、またまたお婆さんが立っています。先の二人とは別人の・・・その三人目のお婆さんから「居間でお茶にしましょう。」と誘われたのです。

時計を見ると午後9時。
あわてて衣類を身につけ誘われるまま、狭い階段を恐る恐る降りて行きました。
はて、自分はこれから何人のお婆さんと遭えばよいのか・・・。

悩みが解決したのは、居間のソファーに腰をかけてまもなくでした。
三人目に会ったお婆さんが紅茶を入れながら「さあ、それでは皆さん自己紹介してください」宿泊客は私と長期滞在のカナダ人老女、オーストラリア人老女、そしてドイツ人青年の4人それぞれ気ままな一人旅だったのです。
その茶話会が終わってから、あの甘いかおりの部屋で安心してぐっすり眠れたのは言うまでもありません。

亀村 俊二

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