91年の私のパリ個展は誰にもみてもらえるチャンスもなく失敗に終わりました。
悔しい思いの私と妻、パリの街も歩き疲れて、サンジェルマン・デプレの教会のまえのカフェ・マーゴのテラスでコーヒーを注文してひと休み。
一ヶ月間続いた誰もこない個展のことを思い返しつつ、さまざまな人種の異邦人達がカフェの前を通り過ぎて行くようすをぼんやりと眺めていました。
その中にこちらを向いて不器用そうに何度もシャッターを押し続ける私より少し歳の若そうな日本人カメラマンが目に止まりました。
今から思うといつもの私なら絶対にしないであろう行動に出てしまっていました。テーブルを離れ、歩道にいる彼のところまで声をかけにいったのです。
同じ写真を職業にしている身、苦労も多いだろうと勝手に思い込み、始めて逢った彼と写真の話を始めました。話も弾み、「こちらで一緒にお茶でも」と私たちのテーブルまで誘っていたのです。
よく聞いてみると彼はパリ在住のジャーナリスト、そして私はパリ個展が失敗に終わった無名の写真家、話は逆転し、いつの間にか個展の失敗談を彼に聞いてもらっている始末。
その後、年月がかかったものの、結局、彼に託した私の作品がパリ大学の色彩学の教授の目に止まることとなり、パリ国立図書館より作品の買い上げのきっかけになったりと、偶然、そして又不思議な力で出会った彼には世話になりっぱなし。
私と彼とのおつきあいはそんな導かれたようなおはからいで始まった次第です。
亀村俊二
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