京のもてなし



年に何度か京都に来られて仕事をご一緒する神戸の女性がおられます。彼女は大変京都好きなので、私と妻はいつも珍しいお店を探しておいて、撮影の合間にお昼をご一緒するのです。

先日、こんなことがありました。
「有名人が紹介する京都のお昼・・」という情報誌を見ていると、「老舗がつくる親子丼ぶり」が目に飛び込んできました。

妻 「あまり知らんお店やねえ」
私 「女優さんおすすめの店やから秘蔵の店かも知れんなあ」

そしてその老舗の前に立った私たち三人は、京都らしい町家の店構えに満足しながら中に入ったのですが、「お昼の親子丼ぶりのお客様は奥の二階です」となにかそっけない中居さんの声。

案内されるままに狭い廊下を通って奥座敷の席に着きました。お昼の時間には少し遅かったせいか、そこには一組の家族と修学旅行生のグループが静かに座敷机の前に座っているだけでした。

私たちも空いている席にゆったりと座ることにしました。二階の窓から見る坪庭の風景は瓦屋根と調和してさすが京の町家の風情でした。その景色を楽しんで話しているとすぐに親子丼ぶりが運ばれて来ました。

「もっとつめてください、相席ですから」

中居さんの言葉に驚いて小さな机の端に追いやられた私たちは、「味だけは期待どおりであってほしい」との思いで、早々と出されて来た親子丼ぶりに手をつけ始めました。

楽しみにしていた今回の京都のお昼ご飯は残念ながら期待はずれに終わってしまい、「たまにはこうのもあるよねえ」と妻と神戸の女性は私を慰めてくれるのでした。

勘定を済ませ誰もいない薄暗がりの玄関で靴を履いていると
「すみません~」「おおきに~」「すみません~」「おおきに~」「ありがとうございました~」とはりのある声が聞こえて来ます。

よく目を凝らして見ると暗がりの中、まっくろな九官鳥がしおらしく、けなげに私たちに声をかけてくれていたのです。おもわず心がほころび、なんとも皮肉なこの声に見送られ、笑いながら店を出た私たちでした。

期待に夢ふくらませて、京都に来られる観光の人々が多い昨今、「京のもてなし」にはじゅうぶん心をこめて気持ちよく帰って頂けるようにしてもらいたいものです。

亀村 俊二

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