弁当箱



小学4年生の頃です。
その日は偶然に、私と兄の遠足の日で、母は二つのお弁当を作ってそれぞれに持たせてくれました。

家には何故か弁当箱が一つしかなく、母は隣に住む叔父の弁当箱を借りてきていたのです。そして、僕がそれをもって行くことになったのでした。

遠足はとても楽しく、すぐに食事時間となりました。皆で輪になり、僕は担任の先生の側に座りました。

一斉に弁当箱を取り出したときのことです。先生は僕の弁当箱を見つけると、「わー、かめむらくんのお弁当箱、ベコベコに歪んでるなあ」と大きな声で言ったのです。

級友達の目は僕の古ぼけたアルマイトの弁当箱に注がれました。そして、おおきな笑いがおこりました。当時の男子といえばアルミのブック型の弁当箱が流行でした。僕の顔は真っ赤になり、楽しかったはずの遠足は寂しい一日と変わってしまったのです。

今、社会の大きな問題になりつつある「学校内のいじめ」が報道されると何故か、私の中であの遠い日の出来事が思い出されてきます。

今日、美大で写真基礎の授業をもって11年となりますが、生徒たちひとり一人がどのように私の言葉を受けいれているのか、ふっと気になりながら授業をすすめている昨今です。

亀村 俊二

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