小学二年生の頃の話です。
私が通っていた宮敷分校の側には「ごろせ川」と呼ばれる汚れた小さな川が とろとろと流れていました。やんちゃで少しきつね顔をしたAくんは放課後よくその川で魚捕りをして遊んでいました。
私はAくんにどんな魚が捕れるのかたずねてみました。
「ナマズや。大きいナマズが捕れるでえ」目を輝かせて真剣に彼は言いました。
「これくらいのが」と彼は両手を広げて見せました。
どうやって捕るのかと尋ねると「釘や。くぎを釣り針みたいに曲げてそれにひもをむすんで」「川に沈めといたら、すぐに釣れるわ」
私は家に帰って兄にそのことを話しました。
兄は私の話を信じませんでしたが私があまりにも夢中になってねだるものですから 釘を持って来て、金槌でたたき始めました。
不格好に曲がった釘がひも先についた仕掛けが出来上がり私は急いでそれをごろせ川へ沈めにゆきました。割り箸を折って結んだ浮きはいつまで待っても沈みません。
だいぶたって、私はふっと、もしかしてAくんにだまされたのではと思い始めました。
「こんなんでナマズが釣れるはずがない」
その時、網を持ったAくんと数人の上級生が川上からザブザブとしぶきをたてて 現われました。
そして川岸にしゃがみこんでる私を見つけるなり「わあー、あほやー、こんなんで釣れるはずないやろ」と、仲間と一緒に囃し立てて笑ったのです。
そんなことすら解らなかった私はその時 顔から火の出るくらい恥ずかしい思いをしたのをはっきりと覚えています。
Aくんが何故あんなに真剣な目をして私を騙したのか、そしてまた、からかったのか私はAくんのことが分からなくなり次の日から彼と話をあまりしなくなりました。 それは子供同士の遊びだったのでしょうか。
そのことがあってから彼はまもなく宮敷分校からどこかの町へ転校してゆきました。
亀村 俊二
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