二十代の頃
夕刻、仕事から帰ってくるとふろしき包みをさげた祖母が表通りに立っていました。
「おばあちゃん、どおしたん?」
「もうすぐお迎えが、来やはるし」
出かける時にはいつも髪を結っておしゃれな姿着の祖母が その時は、はっきりと違っておりました。
そのことがあってから祖母の痴ほう症状は少しずつ進んでゆきました。
夜、眠っていると襖が開き ふろしき包みをさげた祖母が枕元に立っています。
「お迎えが、来はったし行って来ますわ」
と言っていつも私を驚かせていました。
そんな頃、私達は結婚してその家に同居することになり
両親と祖母と私達の新しい生活が始まったのです。
程なく子供が生まれました。祖母にとってはひ孫です。
私の妻が「おばあちゃん、ちょっと、お守りしといてな」
といって、膝に赤ん坊をあずけると
祖母は嬉しそうにひ孫の守りをしてくれました。
私達は忘れていました。
数年前まであんなにいろいろあった痴ほう症(認知症)が
すっかり消え去っていたのを。
祖母はその後毎日、新聞を読める程に快復し
八十八歳まで楽しく暮らすことが出来ました。
もうすぐ、次男夫婦との同居が始まります。
今とは違った新しいあわただしい生活の刺激から
年齢は異なるものの、あの時の祖母のような「脳内活性」が
私達にも始まるようにと願うものです。
亀村 俊二
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