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旅の穴



パリから鉄道に乗ってベルギー、イギリス、スペイン、そして南フランスを妻とふたりで旅したときのことです。

旅の始まりのベルギーはブリュ-ジュでのできごとでした。

駅に降り立って、まず、街の方向に歩きだしたのですが、駅前にレンタサイクルをみつけ、自転車を借りることにしました。

街へ行くには、左の道でも右の道でもよいのですが、私たちは右の道を選びました。

さあ、出発です。

ところが100mほど自転車を連ねて走ったところで妻の自転車が石畳のせまい道のまん中にあいた小さな穴にタイヤをとられ、ゴツンという音をとともにパンクしてしまいました。ため息まじりで駅に戻り、自転車を交換、新たな気持ちでこんどは左の道をすすむことにしました。

ブリュージュは中世の佇まいを残した街並と運河が見事に美しく大勢の観光客で賑わっていました。写真も充分に撮り、きょう一日を満足して過ごすことができ、私たちはロンドン行きの夜行フェリーに乗るためまた駅に戻ってきました。

ところが駅までもう少しというところでゴツン・・・こんどは私の自転車のタイヤがパンクしてしまいました。

そこには、私たちの出発の邪魔をした「あの穴」がポッカリと口をあけていたのです。

どうか「すばらしい旅になりますように」とお願いしての旅の始まりでした。

亀村俊二

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束の間の芸術-パリ・ジョルジュサンクの壁

Tsuka no Ma no Geijutsu-The Art of Walls of the George V Station,Paris SHUNJI KAMEMURA A4判・44頁



束の間の芸術-パリ・ジョルジュサンクの壁
Tsuka no Ma no Geijutsu-The Art of Walls of the George V Station,Paris
SHUNJI KAMEMURA
●A4判・44頁
この写真に撮影されたパリ・ジョルジュサンク駅のポスターは1995年に駅の改装のために取り壊され、今は存在しない。なお、このシリーズの写真すべては1996年にパリ国立図書館の版画写真部門にコレクションされました。

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心にのこる言葉



昨年の1月に京都で個展を開いた時のことです。私が教える京都精華大学の写真の授業と個展の会期が重なったので、会場で作品を前にして講習することになりました。

14、5人の学生が円座になって茶菓子をつまみながらの授業は、雰囲気も変わり楽しんでいる様子がこちらにもはっきりと伝わってきました。

ところが何時も私の側に座る中国人留学生のT君は今日も授業態度が良く、熱心に質問も繰り返してくるのですが、テーブルに出した茶菓子には全く手を付けません。

遠い国からやってきた若い学生の身、お腹も空くだろうと、何度も彼に奨めてはみたのですが、ついに最後まで彼は菓子を食べようとはしませんでした。

授業終了後、身体の調子でも悪いのかそれとも他に何か理由があるのか、気になって彼に聞いてみました。何度も聞く私にT君は申し訳なさそうに言いました。

「先生から頂くのは智恵だけです」。国ではそう教えられました…と。

亀村俊二

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秋田県 大館市



京都から寝台特急・日本海に乗って大館に行きました。

列車は午後9時前に京都駅を出発して北陸本線を北に向います。

京都で買った駅弁も食べ終えコトコトと車両の揺れを楽しんでいるうちにいつの間にかぐっすりと眠ってしまったようです。

目覚めると山形からそこは秋田の県境あたりの川に沿って列車は走っていました。

川面には霧が立ち込め暁に浮かび上がった東北の銀世界はえも言われぬ美しさ…

1時間余りで駅に降り立った私をいちばんに迎えてくれたのは市の中心を流れる長木川に渡来する白鳥やカモたちの群れでした。

亀村俊二

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